医者になるメリットとは?収入や安定だけでは分からない医師という仕事
最終更新日 2026年10月18日
記事執筆者:熊野貴文
幼児教室ひまわり塾長・医師。灘中学・灘高校を経て大阪大学医学部に現役合格し、大学在学中は塾講師・学習アドバイザーとして約1,100人を指導。自ら難関受験を経験した子供側の視点と、保護者への教育相談、東大・医学部へ導いた親や各分野の専門家の知見をもとに、今のわが子に何を優先し、どう実践するかを具体的に発信している。
幼児教室ひまわりの熊野です。
私は灘中学・灘高校を経て大阪大学医学部へ現役で進学し、6年間医学を学びました。卒業後は医師免許を取得し、実際に医師として医療現場で働いた経験があります。その後、2014年に幼児教室ひまわりを創業し、現在は子どもの学力や進路について、多くの保護者の方からご相談をいただいています。
子どもの将来について考える保護者の方からは、「子どもを医者にしたいのですが、医者になるメリットは何でしょうか」「医者は収入が高くて安定していると考えてよいのでしょうか」「医学部を目指せる学力があるなら、医者になった方がよいのでしょうか」といったご質問をいただくことがあります。
医者になるメリットとして、まず思い浮かぶのは「収入が高い」「国家資格がある」「将来も仕事に困りにくい」といったことではないでしょうか。確かに、これらは医師という仕事の魅力です。
ただ、医学部で学び、実際に医師として働いた私からすると、医者になるメリットはそれだけではありません。
医師という専門資格を持つことで、何科へ進むのかを選べます。病院の勤務医だけでなく、開業、研究、教育、産業医など、専門性を生かす道もあります。ライフステージに応じて働き方を考えたり、年齢を重ねても専門性を生かしたりできることも、医師という資格の強みです。
そして私自身が医師として働いた経験を振り返ったとき、収入や資格以上に心に残っているのは、患者さんとの関わりです。
一方で、医師免許を取れば一生安泰というわけではありません。医師として働く限り学び続けることが必要ですし、日本の勤務医には長時間労働をはじめとした課題もあります。
この記事では、医者になるメリットを単に「収入が高い」「安定している」という条件だけで考えるのではなく、実際に医師として働いた経験も交えながら、医師という仕事の魅力と、その裏側にある現実についてお話しします。
医者になるメリットは「収入が高い」だけではない
医者になるメリットを考えるうえで、収入は重要な要素です。しかし、長い職業人生で考えると、それだけでは医師という仕事の魅力を十分に説明できません。
医師免許という専門資格を持てること、何科へ進むかを選べること、さまざまな働き方があること、ライフステージに応じてキャリアを考えられること、比較的長く専門性を生かせること。そして、自分が学んできた医学を使って患者さんの健康や生命に直接関われることも、大きな特徴です。
私は特に、医師という専門資格を土台にしながら、長い人生の中で自分のキャリアを考えられることは、医者になる大きなメリットの一つだと思っています。
ここからは、医者になるメリットを8つに分けて見ていきます。
医者になる8つのメリット
1.比較的高い収入を得やすい
医者になるメリットとして、収入面は挙げてよいと思います。
医師は高度な専門知識を必要とする資格職であり、日本では他の多くの職業と比較して高い収入を得やすい傾向があります。また、米国などでも医師は高収入の専門職として位置づけられています。
私自身、灘高校を卒業したため、高校時代の同級生には医師だけでなく、大手企業、官僚、弁護士など、さまざまな仕事に進んだ人がいます。医師以外でも非常に高い収入を得ている人はいますから、「医者になれば最も稼げる」という話ではありません。
それでも、専門資格を持ち、経験を積みながら比較的高い収入を得やすいことは、医師という職業のメリットです。
ただし、医師の収入は勤務医か開業医か、勤務先、地域、診療科、働き方などによって異なります。「医者の年収はいくら」という一つの数字だけで判断するのではなく、専門資格を持って長期的に働けることも含めて考える必要があります。
2.医師免許という専門資格を持って働ける
医師という仕事の大きなメリットは、国家資格を持ち、高度な専門性を生かして働けることです。
医学部で学び、医師国家試験に合格して医師免許を取得すると、「医師」という専門資格を軸に職業人生を考えることができます。
勤務先が変わったとしても、それまで身につけてきた医学の知識や経験そのものがなくなるわけではありません。もちろん、働く場所や診療科によって必要な能力は異なりますが、専門資格を土台にキャリアを考えられることは、長い人生で見ると大きな強みです。
ただし、医師免許を取れば専門家として完成するわけではありません。資格を長く生かすためには学び続けることが必要ですが、この点については後ほど詳しくお話しします。
3.何科を選ぶかという選択肢がある
医師には、内科、外科、小児科、産婦人科、精神科、皮膚科、眼科、耳鼻咽喉科、麻酔科、放射線科など、さまざまな診療科があります。
違うのは、扱う病気だけではありません。手術を中心にするのか、患者さんとの対話を重ねるのか、子どもを診るのか、緊急対応が多いのかなど、仕事の性質も大きく異なります。
つまり、「医者になる」と決めても、その後の仕事が一つに決まるわけではありません。
医学部で学び、実際の医療現場に触れながら、自分がどの分野に興味を持つのか、どのような医療に関わりたいのかを考えていくことができます。
一つの資格の中に、性質の異なる多くの専門領域があることは、医師という仕事の大きな特徴です。
4.働き方やキャリアの選択肢が広い
医師は診療科だけでなく、働き方にも複数の選択肢があります。
大学病院や総合病院などで勤務医として働く人もいれば、クリニックで働く人、開業する人もいます。大学などで研究や医学教育に携わる道、産業医や公衆衛生などの分野で専門性を生かす道もあります。
もちろん、どの仕事にも簡単に移れるという意味ではありません。それぞれ必要な経験や専門性があります。
それでも、20代で望む働き方と40代、50代で望む働き方が変わったときに、医師という資格を軸にしながらキャリアを考え直せる余地があります。
これは、医師という専門資格を持つ大きなメリットだと思います。
5.女性もライフステージに応じた働き方を考えやすい
特に女性にとって、専門資格を持っていることは一つの強みになります。
結婚、妊娠、出産、育児などによって、仕事に使える時間や生活の優先順位が変化することがあります。そのようなときにも、医師という資格を軸に勤務先や勤務時間などを見直しながら、その時々に合ったキャリアを考えられる可能性があります。
ただし、「医師なら仕事と家庭を簡単に両立できる」という意味ではありません。働く時間を抑えれば、症例経験や手技、研究など、専門性を高めることとの両立が難しくなる場合もあります。
大切なのは、何でも簡単に両立できることではなく、ライフステージが変化したときにも専門資格を土台に働き方を考えられることです。
6.専門性を生かして比較的長く働ける
医師は、身につけた専門性を比較的長く生かしやすい仕事でもあります。
病院や大学など勤務先としての定年が設けられていることはありますが、勤務先の定年を迎えたからといって医師免許そのものがなくなるわけではありません。
健康状態や能力、専門性に応じて、別の医療機関で働いたり、非常勤として診療を続けたりする道もあります。
もちろん、救急対応や当直、長時間の手術など、年齢とともに負担が大きくなる仕事もあります。それでも、働き方を変えながら、それまで身につけてきた医学の知識や経験を長く生かせる可能性があることは、医師という資格の強みです。
7.患者さんの健康や生命に直接関われる
ここまで、収入、資格、診療科、働き方など、職業としてのメリットをお話ししてきました。
ただ、医師という仕事には、条件面だけでは説明できない価値があります。
医師は、自分が学んできた知識や技術を使って、病気やけがで困っている患者さんを診断し、治療し、苦痛を軽くすることができます。病気に不安を抱えている患者さんやご家族に説明し、一緒に治療を考えることも仕事の一つです。
もちろん、医療ではいつも望んだ結果が得られるわけではありません。
それでも、自分が学んできたことを使って目の前の人を直接支えられることは、医師という仕事ならではの大きな価値だと思います。
8.社会的な信頼を得やすい
医師は、日本だけでなく海外でも比較的社会的な信頼を得やすい専門職です。
私自身も海外へ行った際、医師であることを伝えると、敬意を持って接していただいた経験があります。
ただし、「尊敬されるから医者になる」というのは少し違うと思います。
医師が一定の信頼を得やすい背景には、長期間医学を学び、その後も専門性を高めながら、人の健康や生命に関わる責任を引き受けていることがあります。
社会的な評価そのものを目的にするのではなく、高度な専門性と責任を伴う仕事の結果として信頼がある、と考えた方がよいでしょう。
私が医師として働いて感じた、一番大きなメリット
私自身について言えば、医師として働いていた頃を振り返ったとき、収入がいくらだったかということよりも、患者さんとの思い出の方がはるかに強く残っています。
以前担当した患者さんの中には、白血病で骨髄移植を受けた方、重い心臓病を抱えていた方、がんの治療を受けた方など、さまざまな方がいました。治療を終えたあともご縁が続き、10年以上経ってからも年賀状をいただいた患者さんもいます。
研修医の頃に患者さんと一緒に撮った写真も、今でも時々見返します。
もちろん、医療ではすべての患者さんが元気になるわけではありません。どれだけ治療をしても病気が進行することがありますし、つらい場面に立ち会うこともあります。
それでも、自分が長い時間をかけて学んできた医学を使い、目の前の患者さんのために何ができるかを考える。そして治療によって状態がよくなったり、患者さんやご家族が安心してくださったりする。その経験には、収入とは違う価値があります。
私自身にとって、患者さんとの関わりは、医師として働いた経験の中で今も心に残っている大きな財産です。
一方で、こうしたやりがいがあるからといって、医師という仕事の大変さを見なくてよいわけではありません。
医師は資格を取ったあとも学び続ける必要があります。日本の勤務医には長時間労働などの課題もあります。そして、働き方の選択肢があることと、すべてを簡単に両立できることも同じではありません。
後半では、医者になるメリットの裏側にあるこうした現実と、子どもを医者にしたい保護者の方が見落としやすいことについてお話しします。
医者になるメリットの裏側にある3つの現実
医師には、専門資格を持って長く働けることや、診療科・働き方を選べることなど、多くのメリットがあります。
ただし、そのメリットだけを見て「医者になれば一生安泰」と考えるのは少し違います。医師という仕事を長く続けるためには、知っておきたい現実もあります。
1.医師は資格を取ったあとも学び続ける
医師国家試験に合格して医師免許を取得しても、そこで勉強が終わるわけではありません。
医学は常に進歩しています。新しい薬や治療法が登場し、検査や医療機器も進歩します。研究が進むことで、それまで一般的だった治療の考え方が変わることもあります。
私自身も医学部で6年間学びましたが、そこで得た知識だけで、その後何十年も医師として働けるわけではありません。患者さんによりよい医療を提供するためには、その時代の医学を学び、自分の知識を更新し続ける必要があります。
ですから、医師免許は「一度取れば一生安泰になる資格」というより、長く専門家として働くための土台だと私は考えています。
逆に、新しいことを知ることが好きな人や、一つの分野を深く学ぶことに面白さを感じられる人にとっては、何歳になっても専門性を高めていけることも医師という仕事の魅力です。
2.高収入でも、勤務医の労働環境には課題がある
医師は比較的高い収入を得やすい仕事ですが、収入が高いことと、労働環境に問題がないことは別です。
特に日本の勤務医については、長時間労働が長年課題になってきました。
医療では、夜になったからといって患者さんの病気が止まるわけではありません。救急患者さんが来ることもあれば、入院している患者さんの容体が急に変化することもあります。手術や処置が予定どおりに終わらないこともあります。
こうした医療の性質もあり、日本の医療は長い間、現場の医師の使命感や献身、長時間労働に支えられてきた側面があります。厚生労働省も医師の長時間労働を課題として扱っており、2024年4月からは医師にも時間外労働の上限規制が適用されています。
私自身も医師として働いた経験がありますが、日本の医療を医師一人ひとりの良心や自己犠牲だけに頼って維持することには限界があると思っています。
患者さんのために力を尽くすことと、自分の健康や生活を犠牲にして働き続けることは同じではありません。
医師としてのやりがいと、適切な労働環境は別の問題です。
医師が疲弊すれば、医師本人だけでなく、医療の質や安全、将来にわたって医療を提供していく体
制にも影響しかねません。医師が健康に働き続けられる環境を整えることは、患者さんのためにも必要なことだと思います。
3.働き方を選べても、すべてを簡単に両立できるわけではない
前半では、医師は診療科やキャリアの選択肢が多く、特に女性にとってもライフステージに応じて働き方を考えられることをメリットとして挙げました。
ただし、選択肢が多いことと、何でも簡単に両立できることは違います。
たとえば出産や育児の時期に勤務時間を減らすことができても、専門性を高めるための症例経験や手技、研究などに使える時間との両立が難しくなることがあります。診療科や勤務先によっても事情は異なります。
これは女性だけの問題ではありません。家庭生活、専門性、収入、働く時間、研究など、すべてを同時に最大化できるとは限りません。
それでも、医師という専門資格があることで、その時々に何を優先するかを考えながら、働き方を選択できる余地がある。私はそこに医師という資格の価値があると思っています。
子どもを医者にしたい親が見落としやすい2つのこと
ここまで見ると、医師には多くのメリットがある一方で、そのメリットを生かすためには、学び続けることや大きな責任を引き受けることも必要だと分かります。
幼児教室ひまわりでは、「子どもを医者にしたい」という保護者の方からご相談をいただくことがあります。そのときに私が大切だと考えているのは、「どうすれば医学部に合格できるか」だけではありません。
親から見た医師という職業の魅力と、その子本人にとって医師という仕事が合っているかは、分けて考える必要があります。
ここでは、特に見落としやすい2つのことについてお話しします。
1.「医学部に入れる学力」と「医師に向いていること」は違う
幼児教室ひまわりでも、「この子は勉強が得意なので、できれば将来は医学部へ進ませたいです」「せっかく勉強ができるのであれば、医者を目指した方が将来は安心でしょうか」といったお話を伺うことがあります。
このお気持ちはよく分かります。ただ、私はこのようなご相談を受けたときに、学力だけを見て「それなら医学部がよいですね」とは考えません。
もちろん、医学部に合格するためには高い学力が必要です。しかし、医学部に入れる学力があることと、医師という仕事に向いていることは同じではありません。
医師になったあとも学び続けなければなりませんし、患者さんの健康や生命に関わる責任もあります。また、「人を助けたい」という優しい気持ちがあれば、それだけで医師に向いていると判断できるものでもありません。
医学や人間の身体に興味を持てるか。知らないことを学ぶことを苦に感じないか。人と向き合うことに意味を感じられるか。思いどおりの結果にならないときにも、自分の仕事に向き合えるか。
こうした部分も、医師として長く働くうえでは大切です。
「頭がよいから医者にする」のではなく、その子自身が医学や医療という仕事に関心を持てるかを見ることが必要だと思います。
2.親にとって魅力的な職業が、子どもにとってもよいとは限らない
私は、子どもを医者にしたいと考えるときに、ここが最も大切だと思っています。
親の立場から医師という仕事を見ると、非常に魅力的です。比較的高い収入を得やすく、国家資格があり、社会的な信頼もある。診療科や働き方にも選択肢があり、専門性を生かして比較的長く働くこともできます。
こうした条件を見ると、「これだけメリットがあるなら、子どもにも医者を目指してほしい」と考えるのは自然なことです。
ただ、ここで一度分けて考えてほしいことがあります。
親が「この仕事なら安心だ」と感じることと、子ども本人が「この仕事をしたい」と感じることは別です。
親はどうしても、収入、資格、安定、社会的な評価といった「将来困らないための条件」に目が向きます。子どもの将来を心配するからこそ、それは当然だと思います。
しかし、実際に長い医学教育を受け、医師になったあとも学び続け、患者さんの健康や生命に関わる責任を負うのは子ども本人です。
だからこそ、「医者はよい職業か」だけではなく、**「この子にとって、医師はやりたいと思える仕事なのか」**を見る必要があります。
子どもが小さいうちから「医者になりなさい」と将来を決める必要はありません。
むしろ、さまざまなことに興味を持つこと、分からないことを自分で調べること、科学や人間の身体に関心を持つこと、人について考えること、学ぶことそのものを面白いと感じること。そうした土台を育てておく方が大切です。
そのうえで、成長した子ども自身が医師という仕事に興味を持ったときに、その道を選べるだけの力がある。
私は、そのような状態を目指す方がよいと考えています。
まとめ|医者になるメリットは、その仕事自体に価値を感じられる人ほど大きい
医師は、魅力の多い仕事です。
比較的高い収入を得やすく、医師免許という専門資格があります。診療科や働き方にも多くの選択肢があり、ライフステージに応じてキャリアを考えながら、専門性を比較的長く生かすこともできます。
そして何より、自分が学んできた医学を使って、目の前の患者さんの健康や生命に直接関われる仕事です。
私自身、医師として働いた時間を振り返ると、患者さんからいただいた年賀状や、研修医時代に一緒に撮った写真など、今でも心に残っているものがあります。そうした経験を含めて、医師という仕事には収入だけでは測れない価値があると思っています。
一方で、医師免許を取れば人生が自動的に安定するわけではありません。医学を学び続ける必要があり、大きな責任もあります。日本の勤務医の労働環境にも、改善していかなければならない課題があります。
だから私は、子どもの将来として医師を考えるときに、「医者はよい職業か」ということだけで判断するのではなく、その子自身が医療という仕事に関心を持ち、学び続けることに価値を感じられるかを見ることが大切だと考えています。
親が今の段階で、子どもの職業を決める必要はありません。
さまざまなことに興味を持ち、自分で考え、学ぶことを楽しめる力を育てる。そのうえで、成長した子ども自身が医師という道に魅力を感じたときに、自分でその道を選べるだけの力を持っている。
子どもを医者にしたいと考えるのであれば、私はそのような土台を育てることを大切にしてほしいと思います。
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